KAI FACT magazine
モノづくりが、世界に橋をかける。
FACT  No.02

モノづくりが、世界に橋をかける。

ハノイの勢いは止められない。人口約706万人、平均年齢27歳という若さで右肩上がりに経済発展。
フランス統治下で113年前に竣工したロンビエン橋は今日も膨大な数のスクーターが走り、一方で、昨年、旧市街と空港を結ぶ東南アジア最大のニャッタン橋も開通した。
伝統と革新が行き交う街。そこで出会ったのは、世界への架け橋を担う作り手だった。
ロンビエン橋が架かる紅河から下流に2キロほど
下ったところにあるチュオンズオン橋。
1988年に完成し、ハノイ市民が切望する渋滞緩和の
役割を果たしてきた。
ハノイの街では、ベトナム伝統の葉笠ノンラー
を被った売り子の横をベンツなどの高級外車が
通る。この街の急速な経済成長を象徴するよう
な風景だ。
ベトナムは米の輸出量世界2位、
コショウの生産量も世界でトップを争う農業大国。
街は軒先が市場となり、ビィイやスースーなど
ベトナム特産の瓜も見かける。
ハノイ北西部のドゥンラム村を訪れると、この村に住む
アインさんが民族衣裳姿で迎えてくれた。
いつか日本へ語学留学をしたいと笑顔で話す姿が印象的だった。
蓮は泥水が濃ければ濃いほど大きな花を咲かせる。
ベトナム国民は、その姿を今まで多くの苦難を乗り越えてきた歴史と重ね、
復興における心の支えにしてきた。玄関に飾り、お茶にして飲むのは国民全員の習慣だ。
  • ハノイとホーチミンを結ぶ幹線鉄道は密集する民家の間を縫うように走っている。電車が走っていない時は、線路上にテーブルを広げて食事をとる家族もいる。
  • 皇帝レ・ロイが、漁師から譲り受けた剣で明朝を撃破し、その剣を湖の亀に還したという伝説があるホアンキエム湖。昼も夜もデートスポットとして人気がある。
  • 夜の街中はスクーターに乗った若者でごった返し、わずか数センチの間隔を保つようにぎゅうぎゅう詰めで道路を駆る。クラクションも延々と鳴り止まない。
ベトナム文化遺産にも指定されているドゥンラム村。
築100年以上のレンガ造りの建物が残り、情緒ある石畳が広がる。
ここに住む子供たちの笑顔が眩しかった。

中国とフランスの文化が混じる街で進化した
「ハノイ発、世界へ」のモノづくり。

 ベトナムの首都ハノイは、フランスと中国の文化が共存している都市だ。そもそもハノイは、紅河とトーリック河に挟まれた場所を意味する〝河内〟という漢字がルーツ。旧市街を歩くとあちこちに中国を思わせる意匠の建物や寺院があり、ホアンキエム湖のほとりでは大勢の人が早朝から太極拳で汗を流している。一方で、1900年にパリのオペラ座を模して設計された大劇場など、フランス様式の建築が至るところに残り、旧市街では若者がコーヒーを片手にバインミー(バゲットの中に具材を挟む国民食)を頬張る。このように東西のカルチャーがミックスした都市でものづくりに励む人々には、もともとグローバルな視点が備わっているのでは?
 その推測が確信となったのは、400年以上にわたり竹細工を作るフービン村でグエンさん夫婦に会ったときだった。2人は政府観光局主催のコンテストで40以上の賞を受賞してきた職人。だが国内からの高い評価に甘んじることなく、「精巧で美しい竹細工を世界中で使ってほしい」と、日本のセレクトショップと共同で小物や雑貨の製作を始めた。その精力的かつ柔軟なスタンスは、銀線細工が1000年以上受け継がれるディンコン村で工房を構えるトゥアンさんも同じだ。「王室御用達として代々発注を受けてきましたが、次の一手がないと成長しないと思っています」と、韓国が主催する文化交流イベントに参加し、銀線細工の魅力をアジアへと伝えている。
 ファッションの世界にも広い視野を持つ女性がいる。〈LEAʼS〉のデザイナー、レハさんだ。「4年間パリで学んだオートクチュールをどうハノイの街と融合させるかが面白さであり、課題でもあります」と語る彼女は、アオザイのようにボディラインを美しく見せるミニマルなドレスを展開。ハノイ発のファッションを牽引している。
 社会主義国家ゆえに表現の自由を抑制されてきたアートシーンはどうだろう。目を向けると、東京でも数々のグループ展に参加してきたアーティストのマミさんが奮闘中。今年の8月に〈HANOI CREATIVE CITY〉というカフェ併設の複合アートスペースをオープン。キュレーターとしても活動し、世界中から気鋭の若手芸術家を招き入れる。
 急激な経済成長は、時に効率性が重視され、丁寧に何かを産み出すということが忘れ去られがちだ。だが彼らが持つ「ハノイ発、世界へ」という言葉とその姿勢が、この街の良心を支える。次世代を担う旗手たちの強い眼差しは、確実に世界を見据えていた。
  • ハノイを代表する銀線職人のトゥアンさんは次世代の育成にも注力。ディンコン村の工房では、職人を志す19歳から25歳の5名の青年が彼の下で修業している。 Phach Phan Tuan Anh
    No 6 Lane 230/138/1
    Dinh Cong Thuong
    098-953-649
  • フービン村の竹細工職人、グエンさん夫婦。近年はハノイ郊外にある陶器の村バッチャンの職人と手を組み、陶器と竹細工を合わせた異色のコラボ作品を発表した。 Hoang Van Hanh
    Ha Hamlet Phu Vinh Phu Nghia
    Dist.
    098-810-8336
  • 〈LEAʼS〉のデザイナー、レハさんは自身の出身校でもあるハノイ芸術工芸大学で講師も務めていて、トルソーを駆使した本格的なオートクチュールを教える。 Lea's Le Ha
    21 Tran Binh Trong St, Hoan
    Kiem Dist.
    091-332-0185
    www.leasleha.com
  • 新進アーティストでありキュレーターとしても活躍するマミさんのアトリエを訪れると、壁一面を覆うほどのペイント作品と山積みのアート本が出迎えてくれた。 Tuan Mami
    281A Ngo Gia Tu St., Longbien
    Dist.
    093-814-8681
    tuanmami.com

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