世界のスタンダードを更新していく。
独自のカルチャーを育んでいるという点においては他の地域の追随を許さない西海岸の中心、ロサンゼルス。スケートボードやサーフィン、映画など、それらは世界へと広まる強度を持っている。ロサンゼルスに根付いている「オーガニックな文化」からも、次々と常識にとらわれない進化した価値を生み出している。
青い空と白いビーチを楽しむたくさんの人々。この心地
よさこそがロサンゼルスの原点。マリーナ・デル・レイ
からサンタモニカへと続くオーシャンフロントウォーク
はいつも変わらない姿で迎えてくれる。
ロサンゼルスの交通渋滞は深刻な問題。これだけの車社会で
ありながら、ハイウェイの数は多くない。だが夕方の渋滞
も、ロサンゼルスらしさが表現された、ある種の名物みたい
なものだ。
壮大にCDが並ぶ様は圧巻。 <アメーバミュージック>は、
ロサンゼルスでも数少なくなった大規模CDショップ。CDと
いうメディアが衰退しても、カルチャー発信地としてこれか
らも残っていてほしい。
リラックスしながらも自分らしく働く。
クリエイティヴに宿る寛容な精神。
D.I.Y.、ローカリズム、コミュニティ、スタートアップ、ワークライフバランス、シェアなど、現在、当たり前に語られる考え方の多くが、西海岸で育まれた。その中心地であるロサンゼルスは、自由な空気に満ちているが、ある種の〝ゆるさ〟だけでは、世界をゆるがすような革新は生まれ得ない。唯一無二で新しいクリエイティヴはどのように生まれるのだろうか。
ロサンゼルスで生まれ育ったポール・タカハシさんは、スケートとサーフィンを嗜む、いわゆるロサンゼルスらしいクリエイター。彼がつくるものは、すべて「自身の生活から生まれた」という。アパレルブランドを立ち上げ、パーティを始め、インターネットラジオ局も設立。自分の好きなことを追求する姿勢はまぶしく映る。
「交通渋滞がひどいので、家で働くようなダウンサイズした生活がいい」と、スタジオ兼自宅で働く建築家のライアン・アプトンさん。「ニューヨークなどに比べると、ロサンゼルスはかなりリラックスしている。頭の中にもスペースが残っているので、ゆっくり考えることができるんじゃないかな」。せっかくクリエイティヴな刺激を受けても、それを消化し、次に活かせないようでは意味がない。その精神的な余裕がユニークなものを生み出す素地となっている。
ベルリンからロサンゼルスに移住してPR会社<ボールド>の支社を立ち上げたスベンハ・アルタンさんは、ロスでの仕事をこう評する。「ロスの人は『いいね』ってよく言うけど、実はそう思っていないこともあって、見極めが難しい。ただ、常に次の可能性も求めていて『こんなことできる?』って聞いてくるの」。相手の立場や仕事を限定しないポジティブさが、ロサンゼルスのクリエイターの可能性を広げているようだ。
砂糖を使わないフルーツのジャムづくりをしているジェシカ・コスローさん。つくっているものはオーガニックなものだが、かなり忙しく働く日々。「仕事をしながらも、夢を追い求め、それを実現するチャンスがある場所」とロサンゼルスを評する。自身、いろいろな職種を経て、食という夢に辿り着いた。それが仕事の延長線上であっても、別物であっても、常に夢を持ち続けられる街だ。
自分らしさを保ち、自分たちのサイズで生きること。ただ〝ゆるい〟だけではない、さまざまな可能性を認める寛容な姿勢が新しい価値観を生む源にあるようだ。