貝印のカミソリの中には、20以上の特許が詰め込まれた製品もあるという。特許というとどこか堅いイメージがあるが、岐阜県関市の小屋名本社にある特許室では、日々どんな仕事が行われているのだろうか。
「私たちは開発から上がってくる新製品の案について、すでにある特許に抵触しないかを丹念に調べます。特許の仕事は、うまくやって当たり前。毎日プレッシャーばかりですが、意外に人間臭いコミュニケーションも必要なんですよ」と、チーフマネージャーの奥田章誠さん。
ものづくり企業では、特許の有無が競争力の大きな差につながる。そうなると特許出願がメインの業務かと思うが、実際には「調査する」「判断する」「出願する」という3つのプロセスのうち、調査と判断にほとんどの時間を割くという。「一に調査、二に判断、三、四がなくて五に出願」というほどだ。
その調査を主に担当しているのが、同じくチーフマネージャーの赤塚育久さん。経験を重ねるにつれ、〝過去にあんな特許があったな〟とピンと来るようになるという。開発や研究部門とのやりとりが多い特許室では、技術のベースとなる知識が不可欠だが、それに加えて、場数を踏むことがなにより大切なのだ。そんな特許の仕事の難しさと醍醐味を、奥田さんが熱い口調で語る。
「みんながよりよい新製品を市場に送り出そうとしている時に、特許室だけが唯一、社内で反対の意見を言うことがある。つまり、他社の特許に抵触しないよう、開発の意思に反する設計を強いる場合があるんです。市場に出る前の門番みたいな役割の特許室ですが、なるべく開発の意思を尊重できるよう、注文を最小限にするように心がけています。開発側がガッカリしない設計変更案を考えて提示できた時は、この上なく嬉しいですね」。
やってはいけないことを伝えるために、社内で啓蒙活動を続けているという二人。彼らのような存在が、貝印を陰で支えている。