上海の勢いは衰えない。632mの上海タワーや上海ディズニーランドがオープンし、町は例年にも増して活気づく。だが、急速な経済成長で新しいモノが次々と消費されると、質を見極める目が失われるのでは?いや、上海は違う。ここには〝目利き〟の先駆者が築いた、根強いカルチャー基盤がある。
例えば、ゲイリー・ワンさんは2007年に「今までまともなクラブがなかったから」と永福路に〈The Shelter〉をオープン。世界のトップDJが鳴らすサウンドが徐々に大衆の心を掴み、今ではクオリティを求める音楽ファンの溜まり場に。だが「世界に誇れるクラブにしたい。まだまだこれからだよ」と設立10年目を前に次の一手を模索する。
土壌のないところから始めたのは、令狐磊さんも同じだ。ニュース誌しかなかった2006年にライフスタイル誌『生活』をスタート。10年で中国を代表する雑誌に成長し、さらに「上海らしい〝高い質〟のあるライフスタイルを根付かせたい」と、昨年末からライフスタイルショップ「衡山・和集 The Mix Place」のクリエイティブディレクションを担当。1930年代の集合住宅をリノベーションしたモダンな空間には世界中から厳選した数千冊の本や雑誌を並べ、別棟には服や雑貨を取扱うジェネラルストアやカフェを併設。書店内でエキシビジョンやトークショーを行う立体的な仕掛けも、ここ上海では斬新な取り組みだ。
上海のアートスポット〈M50〉にアトリエ兼ギャラリーを構えるアーティスト集団〈island6〉もまた、新しいアプローチを試みる。代表作である中国の伝統的な切り絵細工にLEDを組み合わせたハイテクなデジタルアートは、そのユーモアさゆえにファンが多い。 国籍も職業も違う約15人のメンバーで制作に励む。 「監督、カメラ、俳優など、その道のプロで編成される映画のようにチームで世界にアートを発信したいね」と、代表のトーマス・シャルベリアさんは、国境を越えていくアートの可能性を追求している。
世界のファッションピープルからの信頼も厚い、富民路にあるセレクトショップ〈棟梁〉。店のラインナップの約10%が、パリやミラノでも高く評価されている中国人デザイナーの手がけるブランドだ。だが、1階の一番目立つラックには見たこともないブランドが。 CEOの彭耀東さんに聞けば、「次世代を担うデザイナーの卵にチャンスを与えたい」と語る。服飾専門学校と提携し、無名の学生に〝披露する場〟を与えているのだ。
モノを見極める目を養う力を町に与えようと奮闘する人々は、上海にも確かに存在する。〝爆買い〟で消費する近未来都市の印象がつきまとうが、それは表面だけ。深く掘るほどに、新しい上海の〝本質〟が見えてくる。