KAI FACT magazine
新しい上海をつくるのは、モノを本質で選ぶ審美眼。
FACT  No.04

新しい上海をつくるのは、
モノを本質で選ぶ審美眼。

中国人旅行客が日本で大量に商品を買い込む“爆買い”に象徴されるように、チャイナパワーの勢いは年々加速するばかり。
ただ、その“量”だけに注目されがちだが、“高品質なモノを”というのが一番の動機であり、
ファッションやアート、食文化においても、クオリティを重視する人が徐々に増えてきた。確かな審美眼が今、上海に根付こうとしている。
4月に新天地太平湖公園の特設会場で開催された
2016年秋冬の上海ファッションウィーク。
日本だと同じような格好をしたゲストが目立つが、
上海の若者は十人十色で個性的。
1930年代に建った紡績工場跡地を利用して造られたギャラリースペース〈M50〉は、上海発のアートの中心地。塀にも色とりどりのグラフィティが描かれている。
上海ファッションウィークの会場は、
世界中から駆けつけた報道陣でごった返していた。
人気ブランドのランウェイや、500を超える
ブランドの展示会が年2回開催される。
  • 食への意識も大きく変わった。デリ&レストラン〈GREEN & SAFE ORGANIC〉は、契約農家で仕入れた無農薬野菜のみを使用。生産背景もすべて公開している。
  • 富民路にあるセレクトショップ〈棟梁〉には中国人デザイナーのブランドが集結。世界のモードシーンで活躍する編集者やデザイナーが上海で必ず訪れる店だ。
  • 龍美術館で開催されていた『オラファー・エリアソン展』。大型のキューブアート「Polyphonic House」が、コンクリート打ちっぱなしの空間に際立っていた。
『オラファー・エリアソン展』に来ていたカレンさん(写真右)とグレイスさん(左)。
「龍美術館は黄浦江川沿いで気持ちいいし、世界の“新しい”を求めて頻繁に来るの」と口を揃えた。
ルーフトップから黄浦江の外灘側と陸家嘴側の両サイドを
大パノラマで一望できる〈Hotel Indigo〉からの夜景。
ビルの壁面には「Hi 魔都」の文字が。
アヘンや犯罪でまさに“魔の都”だった、19世紀の上海の呼称だ。
だがその時代を逆手にとり“クールな都市”というポジティブな意味を込め、
今の上海に生きる若者たちは使う。
  • 世界的にも有名なバーテンダー・後閑信吾氏がオーナーのバー〈Speak Low〉。禁酒法時代の米国で地下営業をしていたバーをイメージ。パフォーマンスも必見だ。
  • 上海には看板すら出ていないクラブが多く存在する。中心部から外れた幸福路沿いのクラブはアンダーグラウンド感たっぷりで、ローカルが夜な夜な集う。
  • 4月に新楽路沿いにオープンしたクラブ『Elevator』。テクノとハウスが中心で、オープン初日は金曜だったということもあり、外国人旅行客を中心に超満員。
永福路にあるクラブ〈The Shelter〉のエントランス。
防空壕を改装したクラブのため、中に入ると湿気まじりの冷たい空気が漂う。天井の低い通路を抜ければどっしりと重いベース音が。
日本からもDJ KRUSHやMITSU THE BEATSなど、
世界から名だたるDJを招いている〈The Shelter〉。
ハイクオリティな音を求める客でエントランスは溢れ返っていた。
〈Le Baron〉や〈The Shelter〉などのクラブを中心にスナップ。「上海人の特徴は?」と聞けば、「歴史的にフランスも日本も入っているから感覚がグローバルで新しいモノ好き。
〈DOE〉をはじめとした上海発のストリートブランドも増えてきた」との答えが。
上海ファッションウィークに集まるこの町のファッショニスタたちは、パリ・ミラノ至上主義ではなく、名もないスモールブランドであってもフラットな目線でファッションを心から楽しんでいる様子。

“目利き”を担うクリエイターが
上海を世界基準へと押し上げる。

 上海の勢いは衰えない。632mの上海タワーや上海ディズニーランドがオープンし、町は例年にも増して活気づく。だが、急速な経済成長で新しいモノが次々と消費されると、質を見極める目が失われるのでは?いや、上海は違う。ここには〝目利き〟の先駆者が築いた、根強いカルチャー基盤がある。
 例えば、ゲイリー・ワンさんは2007年に「今までまともなクラブがなかったから」と永福路に〈The Shelter〉をオープン。世界のトップDJが鳴らすサウンドが徐々に大衆の心を掴み、今ではクオリティを求める音楽ファンの溜まり場に。だが「世界に誇れるクラブにしたい。まだまだこれからだよ」と設立10年目を前に次の一手を模索する。
 土壌のないところから始めたのは、令狐磊さんも同じだ。ニュース誌しかなかった2006年にライフスタイル誌『生活』をスタート。10年で中国を代表する雑誌に成長し、さらに「上海らしい〝高い質〟のあるライフスタイルを根付かせたい」と、昨年末からライフスタイルショップ「衡山・和集 The Mix Place」のクリエイティブディレクションを担当。1930年代の集合住宅をリノベーションしたモダンな空間には世界中から厳選した数千冊の本や雑誌を並べ、別棟には服や雑貨を取扱うジェネラルストアやカフェを併設。書店内でエキシビジョンやトークショーを行う立体的な仕掛けも、ここ上海では斬新な取り組みだ。
 上海のアートスポット〈M50〉にアトリエ兼ギャラリーを構えるアーティスト集団〈island6〉もまた、新しいアプローチを試みる。代表作である中国の伝統的な切り絵細工にLEDを組み合わせたハイテクなデジタルアートは、そのユーモアさゆえにファンが多い。 国籍も職業も違う約15人のメンバーで制作に励む。 「監督、カメラ、俳優など、その道のプロで編成される映画のようにチームで世界にアートを発信したいね」と、代表のトーマス・シャルベリアさんは、国境を越えていくアートの可能性を追求している。
 世界のファッションピープルからの信頼も厚い、富民路にあるセレクトショップ〈棟梁〉。店のラインナップの約10%が、パリやミラノでも高く評価されている中国人デザイナーの手がけるブランドだ。だが、1階の一番目立つラックには見たこともないブランドが。 CEOの彭耀東さんに聞けば、「次世代を担うデザイナーの卵にチャンスを与えたい」と語る。服飾専門学校と提携し、無名の学生に〝披露する場〟を与えているのだ。
 モノを見極める目を養う力を町に与えようと奮闘する人々は、上海にも確かに存在する。〝爆買い〟で消費する近未来都市の印象がつきまとうが、それは表面だけ。深く掘るほどに、新しい上海の〝本質〟が見えてくる。
  • 〈The Shelter〉オーナーのゲイリー・ワンさん。1999年まで7年間日本に留学し、日本大学を卒業。中国人として初めて、世界的なDJコンテスト「DMC」のチャンピオンに。 The Shelter
    上海市徐匯区永福路
    5号地下1階
    021-6437-0400
  • 『生活』のクリエイティブディレクター、令狐磊さん。旅やアート、建築など、ひとつの号でひとつのテーマを深く掘り下げ、そのダイナミックなページ展開に世界も注目する。 衡山・和集 The Mix Place
    上海市徐匯区衡山路880号
    021-5424-0100 (Dr.White)
  • 〈island6〉のアートディレクター、トーマス・シャルベリアさんは、上海の魅力をこう語る。「進化のスピードが速く、毎年、その価値も変わる。伝統と現代性が折り重なる町だね」。 island6
    上海市普陀区莫干山路
    50号6号楼2階
    021-6227-7856
    www.island6.org
  • セレクトショップ〈棟梁〉のCEO、彭耀東さんは、ショップを構える前にマッキンゼー・アンド・カンパニー社で4年間ビジネスコンサルティングをしていたキャリアを持つ。 棟梁 Dong Liang
    上海市静安区富民路184号
    021-3469-6926
    www.dongliangchina.com

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