KAI FACT magazine
“最高の包丁”への飽くなき挑戦。
FACT  No.15

“最高の包丁”への
飽くなき挑戦。

 2003年2月、フランクフルトのアンビエンテ見本市で、貝印グループの包丁の歴史を革新する出会いがあった。三代目・遠藤宏治を訪ねてきたのは、フレンチの重鎮、ミシェル・ブラス。フランス中南部の自然豊かなオーブラック地方で、母親が経営するオーベルジュを手伝いながら独学で料理の世界を確立。独立オープンしたレストランでミシュラン三つ星を獲得した天才料理人だ。彼らをつないだのは、それぞれの妥協を許さない真剣なものづくり、人となりを知る人たちだった。この出会いが、国際包丁ビジネスのフラッグシップ・モデルとなる、その名も「ミシェル・ブラス」シリーズの誕生へとつながっていく。初対面で意気投合した宏治とブラスは、早速、包丁の開発について話し、2年に及ぶ「ミシェル・ブラス」の開発プロジェクトがスタートした。宏治は、人々の生活に密着した刃物を優れた職人が心を込めて一つひとつ作る〝野鍛冶〟の精神を重視し、いくらコストがかかろうともブラスの要望に全て答えるよう制作チームに指示。そして〝最高の包丁創り〟が始まった。開発は、当時すでに欧米で成功していた「旬」をベースに、ブラスのアイデアからデザインし、意見交換を重ね、できたサンプルをレストランで使って足りない部分をブラッシュアップする繰り返しだった。こうして2年余りの開発期間を経て「ミシェル・ブラス」の包丁シリーズとして7種類(現在は10種類)が誕生した。そのコンセプトは〝この7本があれば、ブラスのレストランのコース料理を作るのに十分だ〟だった。しかし、ブラスの要望に応えて完成した包丁は、一丁の平均価格が300ドルにも膨れ上がっていた。これは当時高価格と言われていた「旬」の2.5倍にもなる。しかし宏治は、モノを売るという発想より、〝最高の包丁創り〟を第一義とした。2005年3月、東京本社を皮切りに、海外でも「ミシェル・ブラス」のプレス発表会を開催。当初より、「欧米でグローバル・ブランドに育ててから国内の販路を開拓する」「初年度は売れる数は少なくてもいいから世界屈指の高級雑貨セレクトショップで販売する」という戦略は見事に花開き、現在は、貝印が扱うさまざまな商品にその世界を拡大している。

 そして2019年、貝印グループは創業111周年を迎えた。記念の新製品発表会では、〝NEXT VISION 111〟をテーマに、カミソリ、美粧用品、家庭用品ともに、「持続可能な開発目標(SDGs)」に沿った環境対応プロダクトなど、次世代に向けた取り組みも発表された。それらの商品は、常に挑戦を忘れない貝印の精神を象徴するものである。そして次のステージへと、貝印は挑んでいく。


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