ターバン男性も、クラブではダンシングタイム。
バハーイー教の礼拝所である〈ロータス・テンプル〉。
デザインも人気があり、観光地として常に賑わっている。
多民族で多宗教。インドは常に多くのものを受け入れてきた。だから多様なエネルギーが渦巻いており、ひと言では言い表せない独特の文化を形成している。ヒンドゥー教、IT、マハラジャ、ターバン……。典型的なインドを探そうとすると、なんだか肩透かしをくらう。どれもインド。それぞれの価値観を侵害することなく、我々から見たら“不思議な間”で生きている。インドの深さはちょっとやそっとでは覗き見ることはできない。だからおもしろい。
壁画にインド独立の父、マハトマ・ガンディー。
オールドデリー付近は、人、車、リキシャーの波がすさまじい。
オブジェがある広場。
でも入り口がわからない不思議。
南デリーには、インド産コーヒーを出す店や、
グリーンがかわいいカフェも増えている。
〈コンノートプレイス〉の木陰でひと休み。
インドは広く、さまざまな人種や文化がクロスオーバーしており、西洋文化の流入も大きい。その文化に影響を受けた若者を中心に人気のデザインレーベルが〈Play Clan〉だ。ポップな色使いやモダンなデザインなど、一見、インドのクリエイティヴとは思えない。しかし柄やストーリーなど、モチーフとなっているものはすべてインド文化であり、インドの光景やカルチャーを“ほどよく”落とし込む。「インド中でものづくりの職人を探しています。伝統的な技能の内側にある閃きを現代の視点で解釈することで、新たな価値を生み出し、次世代に継いでいきたい」というアートディレクターのヒマンシュ・ドグラさん。今回、表紙を開いたページにある印象的なイラストは彼らの作品だ。
インド国内に8店舗を構えている〈Play Clan〉。
Shop no.17, Meherchand Market Behind India Habitat Centre, Lodhi Road, New Delhi 110 003
日本人が“カレー”と呼ぶものは、スパイスを使った料理の総称であり、かなり大ざっぱな分類である。実際には、煮込んだ料理以外にも、炒めものや和えもの、さらには辛くないものまで、多種多様なスパイス料理が存在する。なかにはモダンにアレンジされたインド料理も登場している。しっかりとスパイスを使いながら、まったく新しい一品や、トラディショナルな“カレー”をアップデートしたものなど、インド料理も進化を遂げている。
カレーは“日常食”であるが、それだけに種類はさまざま。私たちがひとくちに“ナン”と呼んでいるものでも、実はチャパティ、ロティ、プーリ、パラタ、クルチャ、パパド、ドーサなどそれぞれ違うものだ。その区別をして注文できるようになれば、インドの奥深い食文化を理解でき、滞在中の食事をより楽しめるようになるだろう。
ターリーと呼ばれる定食のようなもの。インド料理におけるスタンダードのひとつ。
ビリヤニという炊き込みご飯など、家庭やお店の数だけスパイスによる味つけがある。
インド料理に長い歴史と伝統がある一方、それを進化させていく動きもあった。西洋料理や和食ともフュージョンし、調理法や食材を大胆にアレンジしているのだ。味を楽しむ食事のその先、目で見ても楽しい仕掛けも満載。カレーのイメージが強いインド料理という枠を突破していくイノベーティヴな姿も、現代インド料理のひとつになっている。
古くから綿花が採れていたインドでは、織物や縫製などの産業が盛んだ。そこで〈KARDO〉のものづくりを覗いてみた。〈KARDO〉はインド生産ながら海外にも展開しているブランドで、シャツの仕立てには定評がある。インド各地で手織りや染めの技術を探してきては、〈KARDO〉の服づくりに応用している。「インドは長く海外からの労働市場として考えられてきましたが、それを払拭し、適正な賃金を払っていきたい」というのはサルタック・サクセナさん。そうした取り組みのひとつとして、大きな工場のように分業せず、限られた職人の手で仕上げていく「ONE×ONE」がある。タグにはそのプロダクトをつくった個人名が記されており、職人のモチベーション向上にもつながっているのだ。
取材日は、明るく風通しのよい環境で
6人程度の縫製職人が働いていた。
タグには「HAND CUT」「STITCH」「HAND
FINISH」を手がけた職人の名が記されている。
KARDO/2010年、リッキー・ケールさん(左)が友人たちと始めたブランド。2013年に法人化した。リッキーさんがパリ出張中のため対応してくれたのはサルタック・サクセナさん(右)。取材日がちょうど働き始めて2年だとか。
インドのサステナブルな取り組みを応援し、特に環境や農業分野に関する情報発信を行う活動家がDr.ヴァンダナ・シバさんと、彼女が率いる環境保護団体〈ナブダーニャ〉だ。例えば貝印の工場があるニムラナは砂漠地帯にある。「地下水を使って農業をしていますが、水をすべて汲み上げてしまわないような農業を農家たちと一緒に進めています。砂漠で生きてきた人たちが、いかに少ないリソースで工夫して生きてきたか。そこにサステナビリティの“気づき”があるはずです」という。こうした気づきは、インド27州すべてにあるという。工業化されたモノカルチャーの農業ではなく、その土地に根ざした伝統的な農業。そういったローカリティがインドにあることを教えられた。
Dr. ヴァンダナ・シバ/環境活動家。有機農業や種子の重要性を問い、研究や実践を行っている。1987年には「9つの種」を意味する環境保護団体〈ナブダーニャ〉を設立。環境問題から派生し、グローバリゼーション、社会的マイノリティ、ローカルコミュニティなども網羅し、書籍や論文も多数。
インド北部のデヘラドゥンにある〈ナブダーニャ農園〉は、農薬不使用、遺伝子組み換えされていない種を使って、数百種のお米や麦などを育てている。それらの作物は加工され、販売もされている。ほかにも環境に優しい取り組みが多数。
日本とインドの子どもたちをつなぐ〈ウォールアートプロジェクト〉は、貝印がスポンサーのひとつとなり、応援している活動だ。インドと日本の学校をキャンバスとした芸術祭〈ウォールアートフェスティバル〉に始まり、インドの先住民族〈ワルリ族〉のサステナブルな暮らしを発信していく〈ノコプロジェクト〉や、それを他地域にも発展させた〈世界森会議〉など、インドのローカルに光を当て、暮らしのなかにある知恵や工夫を見つめ直す活動でもある。
学校の壁面いっぱいに、インドと日本のアーティストが作品を描いていく。教室全体が絵で包まれることで、壁が壁でなくなるアートのパワーを見せつける。ある意味でストリートアートであり、ものづくり精神の原点ともいえる。
ウォールアートプロジェクト/代表のおおくにあきこさんとディレクターの浜尾和徳さん。活動内容ごとにインド各地と東京や福島を飛び回っている。東京・仙川町に拠点である〈ツォモリリ文庫〉を構える。