KAI FACT magazine
People in this town
FACT  No.01

ポートランドに住んでいるのなら、
自然ととことん仲良くなるべきだ。

1970年代から環境保全を推進し、人と自然が共生しながら発展してきたポートランドに暮らす人々にとって、
自然はすぐ近くにある、生活になくてはならない存在。緑に囲まれた「クリエイティブシティ」で、アウトドア
レジャーを楽しむクラフトマンの休日を訪ねた。
KAI USAのスタッフ。上司も部下も入り混じり、リラックスして共に飲み食べる。そんなところからビジネスのアイデアが生まれることもある。
トミーが木工作業を行うワークスペース。ポートランドは森に囲まれ、古くから林業が盛んで木工の歴史も深いという。一本の木から削りだし、美しく磨き上げる作業はまさに職人仕事だ。

自然を愛すること、手仕事を愛すること。
この街に住む人々が心に秘めていること。

 よく知られるアメリカ西海岸の街の抜けるような青空のイメージからすれば意外かも知れないが、ポートランドは雨の多い街だ。特に秋から春にかけては雨が多く、空はほとんど曇天なのだという。しかしその降り注ぐ雨こそが、この地の豊かな緑を育んできたことも事実である。太平洋岸に広がる広大な森、北の州境に広がるコロンビア渓谷、そして東に望む州最高峰のマウント・フッド。その自然の大きさと近さは、当然ながらこの街の人々の暮らしにも大きな影響を与えている
「休日は森でキャンプしたり、川で釣りをしたり。マウント・フッドでスキーすることもあるよ。でもやっぱりこんな風に、バックヤードに仲間を集めてバーベキューで旨いビールを一杯、てのが一番リラックスできるね」
 曇天の日々からやっと抜けて澄み渡る5月の空そのままに、トミー・ルーカスは穏やかで晴れ晴れとした表情で語る。そう言いながらも、大きなグリルに火を起こしたり、母屋から椅子を運び出して並べたりと、準備の手は休んではいない。ポートランドのダウンタウンから車で30分ほどの郊外住宅の裏に広がる彼の庭は、大きな芝生のスペースの周囲を多様な木々が取り囲む小さな森のようでもある。すでに幾人か来客も現れて、パーティータイムはいよいよスタートというところだ。
 KAI USAハウスウェア部門のイノベーション責任者であるトミーは、中西部のオハイオ出身。妻もデザイナーである彼らのようなクリエイティブな人々には、この街のもつ独特の魅力は移住を決意させるのに充分であったようだ。
「ここへ来てKAIに出会って、はじめてナイフのデザインをやり始めたんだ。僕の父は車を作る仕事をしていたから、僕にも素質があるのかもしれないね。今の仕事はとてもやり甲斐のある仕事だよ。職場の仲間たちとも良い関係で、時々は今日みたいに一緒に食事して楽しむんだ」
 準備が済めば、ポートランド名物でもあるビールで乾杯。大きなブロックのステーキを丹念に焼きあげる仕事は、男性が担当するのが彼らの「伝統」。リラックスチェアに腰掛けて話したり、フリスビーして遊んだり、思い思いにのんびりと過ごす。
 「見せたい場所がある」と、トミーは自らの邸宅の隅にある、彼が趣味として取り組む木工のアトリエに案内してくれた。小さな空間にカービング用、研磨用などのマシンや、ノミや金槌などの道具がところ狭しと並ぶ。仕事以外の時間も、こうしてものづくりに向かう彼はまさに根っからのクラフトマンだ。
「アイデアを考え、形にしたり改良したりするのが好きさ。だからKAIを通して日本のものづくりに触れられたことは大きかったね。日本では、まだクラフトマンシップの火が残っている。残念ながら、アメリカでは伝統的なマシンやスキルが失われてしまっている場合が多いんだ。例えば、アメリカで生まれたデニムにおいて、今、最高品質のものを作っているのは日本だよね。技術を継承し、妥協せずに質を追求すること。今、ここポートランドをはじめ、多くのアメリカ人もその大切さに気がつき始めている。僕自身、そのチャレンジできる環境に感謝しているよ」

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