貝印の工場や生産拠点の〈カイ インダストリーズ〉本社を岐阜県関市に置く貝印グループ。そこからもっとも近い営業拠点が、初の支店として1947年に設立された名古屋支店である。距離が近いため、情報の行き来は全国や海外の他支店と比較しても多く、それだけに常に注目される支店である。しかし名古屋支店の社員たちはそれを自覚し、推進力へと変換しているようだ。名古屋支店が営業エリアとしてカバーする中部地区の特徴を問うと、「真面目で慎重、一度気に入ったら長く愛してくれる」と答えてくれたのは、支店長の辻武敏さん。
「慣れれば仕事はしやすいです。人間関係をしっかりと構築しておけば、価格に左右されず、当社商品を取り扱ってくれます」。
慎重ゆえに「“大きく”ではなく、定番をコツコツと展開することが大切」と営業手法を教えてくれたのは、平田普二チーフマネージャーだ。辻支店長も「一気にたくさん“面”で売るのではなく、細かくても“点”での売上をたくさんつくることが、このエリアでは必要な戦略です。それが基本の売上につながってきます」と続けた。
岐阜と名古屋を拠点にする企業ということで、地域の人たちは“地元企業”として応援してくれているという利点もあるようだ。それに応じていくことも、貝印名古屋支店としての責務かもしれない。
「逆に私たちも、地元の企業にがんばってもらいたいという思いで、取引に臨んでいます」と、平田チーフマネージャー。それぞれが向上していくことで中部地区全体の発展につなげたいという思いは、みな変わらないようだ。
名古屋に営業拠点を設立した二代目遠藤斉治朗の肖像写真を前にインタビューに答える、辻武敏名古屋支店長。岐阜市出身。休日には、名古屋名物である喫茶店のモーニングを奥様と一緒に食べながら、のんびりとした時間を過ごすとか。
大阪支店や名古屋支店、東京本社の商品本部を経験し、名古屋支店配属になって3年の平田普二チーフマネージャー。一時期はフットサルにはまっていたが、最近は岐阜や三重にゴルフに出かけることで、リフレッシュしている。
名古屋の顔!
イエローのヤングT!
名古屋支店の営業エリアで、他エリアより売れている商品がある。カミソリの〈ヤングT〉と〈KⅡ〉だ。ともに長く定番として受け継がれてきたもの。一度、使用してみて納得すると、他の商品へ浮気することが少ない中部地区の地域性をよく表している。「先輩たちが集中的に売ってくれた結果として、この地区に根付いたものです」と辻支店長は謙遜しつつ、定番を絶やさず売り続け、中部地区のお客様の満足度を高めることも忘れない。
1989年発売のステンレス
2枚刃カミソリ〈KⅡ〉
〈KⅡ〉の替刃5個入り
1枚刃で厚刃のカミソリ〈ヤングT〉
名古屋市覚王山エリアにある人気パティスリー〈シェ・シバタ〉のオーナーシェフ、柴田武さんは2017年、パリで開催された〈サロン・デュ・ショコラ〉に参加。アンバサダーを務めているフランスの老舗チョコレートブランド〈セモア〉のブースで、日本特有の食材をブレンドした〈SAMURAI CHOCOLAT〉を発表した。この時に柴田シェフが貝印にオーダーしたのが、”日本刀型ショコラナイフ”だ。実際にお客様にこのナイフでボンボンショコラを切ってもらうなど、話題づくりに成功した。
「見た目はユニークであっても、切れ味は折り紙付きです。私の地元の岐阜が、刃物の一大産地であるという伝統の側面も、同時に伝えられますよね。カウンターでは日本刀を振り回したりして、とにかくやり切りました(笑)」。
国内外への店舗拡大においては、パティシエという職人でありながら、経営者的な手腕を奮ってきた。
「いつまでも鮮度のあるブランドであり続けるためには、常に変化していかないといけません。挑戦しないと新しいものは生み出せない。純粋なるパティスリーから、一歩先に行くものを目指していきたいです」。
変化を厭わない柴田シェフの挑戦は、まだまだ止まることはないようだ。
柴田シェフから貝印への発注内容は「刀らしく見えること。しかし“オモチャ”ではなく、きちんと切れ味もいいこと」。これに応えた日本刀型ショコラナイフ。発売はしていないが、売って欲しいという声も多いとか。
岐阜県多治見市で創業以来、国内4店舗、中国6店舗、タイ5店舗を数えるスイーツ店〈シェ・シバタ〉。写真の2号店は名古屋の覚王山にあり、2006年のオープン以降、周辺にお店が出来始め、このエリアが注目される先駆けとなった。
コートジボワールやエクアドル産のチョコレートを中心に、岐阜県上之保産の無農薬柚子や奥飛騨の山椒、愛知県西尾産の抹茶など、日本特有の食材をマッチングさせた〈SAMURAI CHOCOLAT〉。日本人としてのアイデンティティを見事に表現している。