ゼロからイチへ、オリジナルなものを作り出していく、その前段階。クリエイターたちはどういった過ごし方をしているのだろうか。自分と向き合うこと、そこから生まれる歓び。その向き合う直前にある時間/行為こそ、知りたくなる。
AUGERの世界観をモチーフとして制作された今回のコラボレート作品は、ペイントを軸に立体やビデオなど多様なメディアを通して作品を制作するwimpと、OKAMOTO’SやQiezi MaboなどのMVを手掛けるほか、NIKEへのアートワーク提供やUNDERCOVERとのコラボレーションも行うDensuke28による合作となった。鉄鉱石をモチーフとしたDensuke28のグラフィックの上から、wimpが「THE STING OF SUNBURN GENTLY TRACED BY NAILS=日焼け痕を爪でそっとなぞる」と描きこんだ大型作品について、「自分と向き合う」時間について、二人に訊いた。
—AUGERをモチーフとして作品を制作いただきました。お二人の共作は今回が初となりましたが、どういったはじまりでしたか?
Densuke28:最初は、wimpから誘ってもらう形でした。学生の頃からの仲のいい友人ではあったのですが、これまで一緒に作品を作ることはなかった。僕個人としては、そもそも誰かと合作する機会はあまりないので、そこで新しい可能性が開けそうだな、という思いもありました。
—wimpさんは、なぜDensuke28さんに声をかけたんですか?
wimp:全然違うタイプだから、ですね。大元の好きなモチーフやコンセプトは遠くないと思うんですけど、それをどう表現するのかというときにそれぞれやり方が違うし、活動しているフィールドも違う。これだけ違うなら、一緒にやってもお互いの方向がどうなるか見えてこないし、それがおもしろいんじゃないかという。
Densuke28:そうだね、大元の部分が似ているというのはすごく感じる。
wimp:選ぶモチーフがたまたま一緒だったりするから。
Densuke28:今回、知恵の輪をモチーフにしているんですけど、それも最近の共通の興味のあるモチーフだった。知恵の輪という言葉自体もおもしろいし、幾何学的かつ抽象的で、だけどちゃんとツールとしての役割がある。そのあたりのバランスが絶妙。
—実際に知恵の輪を触りながら作品のイメージを膨らませていったんですか?
Densuke28:はい。今回のために20個くらいセットになっているものを買って、それをいろいろいじりながら、いいアイデア出てこないかなと探っていきました。普段の作品制作から、モチーフを探るのがけっこう重要なポイントで。wimpも前回の展示のときに、この同じ形の知恵の輪をモチーフとして使っていたけど、僕も前からこの形が一番気になっていた。
wimp:これいいよね。
Densuke28:小さい頃の記憶にもある。知恵の輪といえば個人的にはこれだった。
wimp:私は、その前回の展示の制作中に、実際に知恵の輪をする機会が偶然訪れたんです。たまたま入った喫茶店のテーブルに知恵の輪がドンって置いてあって、友人と話しながらその知恵の輪を何の気なしに触っていたら、全部解けていったんですよね。「あれ? 知恵の輪うまいかも」という、その体験がおもしろかったのと、改めて知恵の輪を買ってみたら、それを淡々と解く時間って不思議だし希少だなと思って。どうでもいい時間といえばどうでもいい時間だけど、自分にとっては合っていた。たぶん必要のないことだけど自分にとってはプラスになる行為だなと思ったから、自分の作品のモチーフにもした、というきっかけです。
—知恵の輪を解いているときは、無の状態?
wimp:そうですね、ただ知恵の輪を解くためだけの時間。ある意味、ストレス軽減の時間でもある。解けないものもあるんですけど、それはそれでカチャカチャやっているだけでもけっこう楽しい。意外と解けることが大事ではないというか。
—知恵の輪を取り巻く時間や行為について掘り下げたくなるのですが話を戻すとして(笑)。今回のコラボレート作品に込めた思いや狙いを聞かせてください。
Densuke28:僕のグラフィックの部分では、石と金属の組み合わせでAUGERのソリッドなイメージやエッジの効いた感じを表現したかった。その金属を何にするかとなったときに、知恵の輪を用いました。
wimp:Densuke28自体が、これまでも石をモチーフにしてきたので「じゃあ今回の石の素材は何がいいか?」だとか、都度、二人でディスカッションしながら進めました。最終的に「鉄鉱石」というワードが出てきた。鉄鉱石って加工をすれば何か道具になっていく、でもその時間が必要なものでもある。時間をかける必要がある原石というのがいいなと。
Densuke28:鉄鉱石は、AUGERの刃の部分で使われているものの原料として、という意味合いもあったのでぴったりだなと。今回の作品を発表する展覧会『FOGGY OBJECTS』(2023/8/18 – 9/2 @ 東京・八丁堀CENTER/EDO)には、「役割を終えたもの/忘れ去られたもの」というメインテーマがあります。鉄鉱石は、その「役割を終えたもの」というキーワードと対になる「これから役割を与えられていくもの」でもある。その両者を並べることで、展示自体も奥行きのあるものになればいいなと。
—そのDensuke28さんのグラフィックに、wimpさんが青で描いていきました。
wimp:一発で描くしかなかったので緊張しました(笑)。
—描かれているのが、「THE STING OF SUNBURN GENTLY TRACED BY NAILS=日焼け痕を爪でそっとなぞる」という言葉です。
wimp:私が普段から「役割を終えたもの」をテーマに制作するのも、普段の生活で忙殺されて忘れちゃう感覚というか、「自分が忘れているぞ」というのを拾い集める意味があります。必要とされていないものにこそ、大事なものがあるんじゃないか。そうやって時間をかけて見直す作業を、作品を通してやっています。今回の言葉も、日焼けをそっとなぞるという無意識にやっているような行動を、自分のなかで敏感に捉えて残していく、ということがしたかった。日焼けも、そのときの痛みも一過性のもので消えていくけれど、それを自分が意識しているという感覚を大事にしたくて。そういった、必要のないことだけどやっちゃう行為こそ人間らしさだとも思っている。
Densuke28:基本的に、この言葉自体はwimpに任せていたんですけど、最初は「BY NAILS」じゃなく「BY FINGERS」、指だった。その感覚はすごくわかったんですけど、指というよりは爪で日焼けの跡をなぞったときのひりつき感のほうが鮮明に思い出せたので、それを伝えました。
wimp:結果的にですが、「NAILS」のほうがAUGERのツメキリともつながっていくなと。そうやって連想する形で決まっていきました。あと、手のモチーフは入れたかった。鉄鉱石が加工された道具にしても、知恵の輪にしても、AUGERにしても、手が必要になってくるものだから。
—AUGERのアイテムについて、印象を聞かせてください。
Densuke28:この作品に落とし込むときに感じたことは、硬い、エッジーな印象でした。最初にデザインがカッコいいなと目について、使ってみたらすごく調子いい。今日もAUGERのカミソリでヒゲを剃ってきました。このデザインも相まって「使っている感」もありますよね。
wimp:私は、オシャレハサミと毛抜きを愛用しています。見た目もソリッドでカッコよくて、実際に使ってみるとハサミの切れ味も毛抜きの使い心地もめちゃくちゃいい。鋭さゆえに優しい、というのは感じました。今回の作品も、そういった相反する感じを内包して、いい作品にしていけたらいいなとイメージしていました。
—「整える」ための日々のルーティーンがあれば教えてください。
wimp:制作に入る前に、エアブラシだとかの道具を細かく洗って手入れして、それをセットしてからはじめる、というのが基本的なルーティーンです。筆とかも洗っていると準備に1時間くらいかかるんですけど、そのあいだに作品についていろいろ考えることで整理されていく。そうすることで描くときには迷いのない状態になれるというか。その掃除の時間を省いてしまうと、かえって焦ってしまっていい作品ができない。
Densuke28:僕は普段、自宅で作業をしているので家にこもりがちなんですが、一日中家にいて人に会わない日でも、きちんとした服を着たり、身だしなみを整えたり、ちゃんとした状態で制作に向かうようにはしています。そうすると集中もできるし、いい感じの流れで作業ができる。
—「自分と向き合う」時間は、普段から作っていますか?
Densuke28:作品を作っているときは常に向き合っている感はありますね。僕のゴールとしては「自分を納得させること」。それが最低ラインでもあり、最終的な目標でもある。自分がいかに納得できる作品を作れるか。自分が何を求めていて、何を正解としているのか、常に向き合いながら作品を作っていますね。
—クライアントワークに対しても「自分を納得させること」がゴール?
Densuke28:そうです。それが一番、真摯な態度だなと思うんですよ。全力で挑んでいるからこそ、そういう考えにもなるし、そういう考えだからこそ全力で挑むことができる。そうじゃないと、僕に対して何かを求めてくれる人にも失礼かなと思うんですよね。その考えは長いあいだブレてないですね。
wimp:私も、作品を作ることは自分と向き合う行為だと思っているし、そうやって向き合える時間を取れているのもラッキーだなと感じています。生活に追われてしまうと、そんな時間は最初に捨ててしまう可能性もある。もしその時間を取れてない場合は、それに気づけるように、というのは大事にしています。その時間があるから何が生まれるか、それはわからないけれど、その時間がなくなってしまうと、自分が表現していることを失う感じはする。だから、その時間を放棄したくないなと思います。
—では最後に。お二人にとっての「整える」とは?
Densuke28:ベストパフォーマンスを出すための準備、ですね。心身ともに自分を整えて、何かに挑戦していくために必要なもの。
wimp:整える行為を含めて、大切にしておきたい時間です。忙しくなったら省いてしまう行為にあえて時間を取ることが整えることだとも思うので、その時間は意識して取っていきたいなと思います。
Photography_Masashi Ura, Edit&Text_Takuya Nakatani(DEGICO)
今回のwimp×Densuke28コラボレート作品を展示するエキシビジョンが、2023年8月18日(金)より9日2日(土)まで、東京・八丁堀CENTER/EDOにおいて開催。同作品が初披露されるほか、各作家の作品とAUGERの展示も合わせて行います。展示初日の8月18日には、Densuke28のグラフィックをオンしたオリジナルTシャツにwimpがエアブラシで1枚ずつライブドローイング。限定30枚として展示販売いたします。
wimp×Densuke28『FOGGY OBJECTS』 meets AUGER
[会期] 2023年8月18日(金) – 9月2日(土)13:00 – 18:00 ※日曜定休、入場無料
[会場] CENTER/EDO(東京都中央区八丁堀2-21-12)
[作家] wimp / Densuke28
*OPENING RECEPTION:8月18日(金)17:00 – 21:00
ABOUT AUGER®
忙しい朝も、穏やかな夜も、人間らしさを取り戻す。身だしなみを整える時間は、自分と向き合う時間でもあります。自分の心に触れて日常を整えると、普段の何気ない時間が愛おしくなる。AUGERが提供したいのは、暮らしを「整える」心地よい豊かな時間です。