ゼロからイチへ、オリジナルなものを作り出していく、その前段階。クリエイターたちはどういった過ごし方をしているのだろうか。自分と向き合うこと、そこから生まれる歓び。その向き合う直前にある時間/行為こそ、知りたくなる。
今回は、“ピピ”の通称で知られるプロサッカー選手、中井卓大選手を起用したAUGERブランドムービーを手がけた映像作家、Spikey Johnを直撃。レアル・マドリード・カスティージャ所属の中井選手を追う形で、スペインにおいて撮影された本ムービー。「“1人の世界”ということを意識した」「黒の色味にこだわった」という制作秘話から、「自分と向き合う」時間/行為についてまで訊いた。
─Spikey Johnさんが手がけたAUGERのブランドムービーですが、着想点はどのようなところからだったのでしょうか?
貝印サイドからのオーダーは「カッコいいものを作ってほしい」ということ。ピピ選手を起用してスペインで撮影するということは決まっていたので、場所と時間の制限をうまく使ってどうカッコよく見せようかというところから考えていきました。
─AUGER の「Kiss our humanity ‒ 心に触れて“整える”時間」というブランドコンセプトを、ピピ選手を起用して表現する際に、どういったことを意識しましたか?
“1人の世界”ということは意識しました。撮影したのは通行人が多い場所だったのですが、他の人が映らないようにしたり、サッカー場でもひとりぼっち感が出るように離れたところから撮ったり。1人でいることが、「自分と向き合う」ことや「整える」ことに繋がるのかなと思ったので。
─スポーツ選手を起用するということで、普段の映像作りとの相違や特に意識したことはありますか?
スポーツ選手なのでサッカーをプレイしているシーンは絶対に入れたほうがいいと思いました。ピピ選手がいわゆるCMに出演するのは初めてということだったので、だったらなおさら何も意識していない素の瞬間が一番カッコいいだろうなと。
─このムービーの中で特に気に入っているポイントなどがあれば教えてください。
色味がすごく気に入っています。モノクロはモノクロでも、普通のモノクロにしたくないというのは思っていたので、撮影の段階からカメラマンと話し合って、カラコレ(カラーコレクション)もいつもお願いしている人に頼みました。この黒の色味が最もAUGERを象徴するものになると思ったので。なんなら最悪、黒がカッコよく出てさえいればどうにかなるんじゃないかと思うくらいこだわりました。
─モノクロというのは、Spikey Johnさんのアイデア?
AUGERが黒のトーンだということもあって、プロデューサーさんから「モノクロでやったほうがカッコよくね?」と言われて「じゃあそうしましょう」と。
─ある程度余白があるというか、ご自身のイメージがガチガチに決まっているという感じではないんですね。
ノリの部分は多いですね。「あまり考えてもしょうがない」という考えが自分の中にあって。たぶん無意識のうちにいろいろ考えているので、最終的に完成度が高いものになるということだけを考えていればいいのかなと思って作っています。
─撮影はスペインだったそうですが、スペインの街はいかがでしたか?
想像していたよりも古さが残っている街でした。日本のように地震が多くないということもあるからか、歴史的な建造物がちゃんと残っているし、街の人もカルチャーを残そうと意識しているような気がした。洗練されている感じがしました。
─ムービーの音楽を手がけたのはDJ UPPERCUTさんです。音楽はどの段階で付けたのでしょうか?
DJ UPPERCUTさんは広告の仕事も多くて企業の良さを引き出すのに長けているので、信頼しているアーティストの1人。広告の仕事はいつもUPPERCUTさんとタッグを組んでいます。今回の音楽はAUGERの商品説明と動画の企画書を渡して、スペインでの撮影よりも前に作ってもらいました。疾走感が欲しかったので、馬の走る音を入れてもらったりして。UPPERCUTさんは同じオフィスにいて、隣で作業しているんですよ。だから編集のときも一緒に見てもらって意見を交換したり、ちょっと手直ししてもらったりできて。すごく信頼しています。
─ムービーでもピピ選手が身だしなみを整える様子が収められていますが、AUGERの製品の印象はどのようなものでしたか?
カッコいいですよね。自分はめんどくさくてヒゲを剃ったり身だしなみを整えるということをあまりやらなかったのですが、AUGERの製品はカッコいいから手にするのが楽しくて、そこから身だしなみを整えるようになったんですよ。基本的に家とオフィスの往復なので、それまでは結構だらしなくしていたのですが、最近はAUGERを使ってちゃんと整えるようになりました。AUGERのこのデザインには、実際そういう意図もあると思うんですよね。「カッコいいから使ってみようかな」って思わせるような。
─身だしなみを整えるようになったことで内面的な変化はありますか?
気合いが入りますよね。今日も「取材があるから剃らなきゃ」って朝からヒゲを剃って、気合いを入れてきました。
─ヒゲを剃る以外に、撮影の日や大切なお仕事の日に絶対にやることなどはありますか?
映像を始めたばかりのときは「監督だし」と思って、髪をセットしたりしていたのですが、最近はしなくなりました。
─やらなくなったのはどうしてなのでしょうか?
2〜3年前くらいに「キメていないほうがカッコいい」という気持ちになったタイミングがあって。
─映像を作る際も「考えすぎないようにしている」とおっしゃっていましたが、“自然体である”みたいなことは、Spikey Johnさんが大切にしていることなのかもしれないですね。
そうですね。今まさにそういうことに向き合っているところです。考えすぎると「自然体って何だろう」となってしまうので。
─それを考えることは、まさにAUGER が大切にしている「自分と向き合う」という行為だと思うのですが、そういうことを考えるのはどういうときですか?
1日のうち、どこかで常に考えていると思います。仕事に集中していたりして外に意識が向けば考えないけど、ふと我に帰る瞬間など、内側に向いているときは自分と向き合っているのかなと。
─そういう自問自答を繰り返すことでで、作るものも変わっていきそうですね。
そうですね。というか、変わりたいと思っています。ずっと同じだと飽きちゃうんです。あとは、退化だけはしたくないと思っているので。
─制作に取り掛かる前段階における、整える行為の大切さ/準備の部分の大切さについて、思うことはありますか?
大切にしているのは睡眠。絶対に寝る。スッキリした状態でやったほうがアイデアも浮かぶし、ポジティブなマインドで楽しく仕事ができる。逆に睡眠が足りていないと「なんかだるいな」「めんどくさいな」って思ってしまうので。
─「何時間寝る」や「何時からは何時は寝る」といったようなことは決めていますか?
いや、そこは決めていないです。気持ち良くなるまで寝る。昼夜逆転することもありますけど、時間や朝晩といったことは関係がなくて、とりあえず作業する前は寝る。最近はできるだけコントロールしたほうがいいなと思っているので早寝早起きを心がけていますが、どうしても撮影が深夜までかかったり、朝の5時まで飲んじゃったりすることもあるので。そういうときもちゃんと寝てから作業をスタートさせます。
─睡眠をしっかり取ることで仕事に楽しく取り組めるとおっしゃっていましたが、楽しく作業するということも大切にしていること?
そうですね。「やりたくないな」と思っていると時間もかかるだけなので、楽しめるマインドに持っていくようには心がけています。
Photography_Masashi Ura, Text_Chie Kobayashi
ABOUT AUGER®
忙しい朝も、穏やかな夜も、人間らしさを取り戻す。身だしなみを整える時間は、自分と向き合う時間でもあります。自分の心に触れて日常を整えると、普段の何気ない時間が愛おしくなる。AUGERが提供したいのは、暮らしを「整える」心地よい豊かな時間です。