ゼロからイチへ、オリジナルなものを作り出していく、その前段階。クリエイターたちはどういった過ごし方をしているのだろうか。自分と向き合うこと、そこから生まれる歓び。その向き合う直前にある時間/行為こそ、知りたくなる。
AUGERの世界観をモチーフとして制作された今回のコラボレート作品は、フォトグラファーのHARUKA OSHITAとアーティストのAitoneによる共作となった。「(HARUKA OSHITAの)ソリッドな写真に合うAUGERのプロダクトがあって、そこにいかに有機的なものを整然とはめていくか」(Aitone)という狙いと実験の末に完成した3連作についてから、二人に訊いた。
—AUGERをモチーフとして作品を制作いただきました。お二人の共作は今回が初となりましたが、その経緯から聞かせてください。
HARUKA OSHITA(以下、HARUKA):もともと、自分の撮った写真の上に、誰かに絵を描いてもらいたいなという願望はあったんですよね。自分の写真ってどうしてもミニマルなので、そこに“生”のもの、手で描く動きを加えることで化学反応が起こるんじゃないかと漠然と思っていた。どう変化するのか、それを自分でも見てみたかった。この話をいただいたときに、それを実現させた形です。
—その相手としてAitoneさんを選んだ理由は?
HARUKA:この話をいただく直前に、たまたま会ったんですよ。
Aitone:川崎市のほうで壁画を描いているのを見に来てくれて。久々に会ったもんね。
HARUKA:そう、かなり久々に。そのときはライブペイントをしていたんですけど、「へええー、こうやってスプレーをするのか、ペンキのローラーをこう使って描いているのか」と興味津々に見ていました。やっぱりAitoneの絵ってめちゃくちゃかっこいいなと思って。私が感覚的な分、それを含めて緻密に考えてくれる人がいいなというところで、Aitoneだったらそこも安心して任せられる。
Aitone:最初から、お互いのなかで「モノクロで作ろう」というのは決まっていました。あと、「何かわからなくしよう」というのはテーマとしてあった。お互い、そういう作品の作り方をしているところがあるから。
—AUGERという具象を扱うけれど、それを抽象化させる?
Aitone:そうですね。ぱっと見、ちょっとなにかわからない、という。(HARUKA OSHITAの)ソリッドな写真に合うAUGERのプロダクトがあって、そこにいかに有機的なものを整然とはめていくか。二人の得意とするところを掛け合わせて作れたらよさそうだなというイメージでした。
HARUKA:AUGERの商品を撮ってそこに絵を加える、というのもすぐ決まったよね? 打ち合わせのときに、その場でAitoneにラフ画を描いてもらいながら大枠の構成を決めていきました。
Aitone:実際に商品を手にとって、いろいろと見方を変えながら、「この部分を撮ったらHARUKAちゃんの写真に合いそうじゃない?」とか。ものの見方が近しいところはあるから、そのあたりはスムーズでしたね。二人とも、ものを真っ直ぐには見ずに、違う角度から見るというか。
HARUKA:そこからは、好きに撮らせてもらいました。ライティングや配置をいろいろ試しながら。たとえば、ツメキリのヤスリ部分をどこまで凹凸を出して撮ろうか、だったり。そういった部分も含めて、極力、一発撮りで撮りたかった。
Aitone:ブツ撮りしたものをコラージュする前提で撮ってもらいました。
HARUKA:どうトリミングするかもお任せしました。「ここに絵が入るとよさそう」といった判断もあるだろうから。そうやってある程度、構成が決まってから撮影をし直した。まだピントが甘かったので、同じ画角、同じライティングで、極力合成っぽくならないように。ピント送りは2ピンくらいで撮りました。
—その撮影したものを、次はAitoneさんのほうで進めていった流れですか?
Aitone:その前に、紙選びがたいへんでした。どうしても彼女が出したい色と質感で進むと、あまりに紙がデリケートすぎて、普段使っている塗料や手法ではうまく描くことができない。
—理想としては、どういった色と質感だったんですか?
HARUKA:黒をとことん締めたかった。かつ、そこに柔らかさを持たせたいので、普段は和紙を使うようにしているんですけど、でも和紙だと……
Aitone:インクが滲んでしまうし、マスキングもできない。何度かテストをしながら、この紙に決まったけど、この紙でもかなりむずかしかった。
HARUKA:めちゃくちゃマットな紙で。黒の部分が、ちょっとでも触るとすぐ剥げちゃうんですよね。
Aitone:あと、塗料をめちゃくちゃ吸い込むんですよね。だからいろいろテストしながら、このインクとこの方法ならぎりぎり描けるかな、という。塗料や染み込み方はいろいろ実験しました。この写真に馴染むインクはどれか? そこにたどり着くまでは時間かかりましたね。雨の日は湿度が高いからマスキングテープが剥がれにくいから避ける、だとか。紙が汚れないように、1つパターンを描くごとに手袋を変えたり(笑)。普段は、微妙な感覚がわからなくなるので手袋はしないんですけど。でも今回のことで慣れました。
—実際に描き込んでいくときは、どういったことを意識しましたか?
Aitone:あいだの空間を縫っていく感じではあるけれど、なるべくプリミティブな形状だけで作ろうかなとは考えていました。丸と四角と、線の気持ち良さ。あと、写真がミニマルな分、主張しすぎないようには気をつけました。
—中央の作品に関していえば、左右のラインがカミソリで剃っている形状を連想させますが、そういった部分も意識しましたか?
Aitone:そうですね。そういうスムースなラインは意識しました。この部分は、ローラーを串状に加工して、平行な線が気持ち良く出るようにしてから、なるべく手の動きやインクの滲みは生かして描いています。
HARUKA:この手法を川崎のライブペイントのときに見て。「そうやって規則的な不規則さを出してるんや!」って驚いたのを覚えています。
Aitone:あとはAUGERの持つテクスチャー感とも合うようにも意識しましたね。左の作品は、Aテクスチャーのリズム感みたいなものを絵でも表現しています。右のほうは、プロダクトの持っている曲線に沿うような気持ち良さ。
—改めて出来上がった作品を振り返ってみて、それぞれどうですか。
Aitone:写真に描いたことが初めてだったけど、結果、おもしろいビジュアルになったなと。最初、お互いのレイヤーがケンカすると思ったんです。「どちらかが浮くかもね」という話は二人でしていたんですけど。
HARUKA:それは懸念だった。そうなってくると、どちらかだけでいい、となるから。
Aitone:でも紙の質感もあって、うまくマッチさせられたかなと思います。
—AUGERのアイテム自体についても聞かせてください。実際に手にとってみて、どうでしたか?
HARUKA:プロダクトデザインにそこまで詳しいわけではないんですけど、フォルムだったり、デザインだったり、細かいところまですごく作り込まれているなと感じました。あと動作が滑らかで、重厚感もある。ツメキリの使い心地も良すぎて、それに慣れるまでこっちがぎこちなくなるくらい(笑)。
Aitone:切るときの安心感も全然違いますよね。中学生くらいからずっと同じツメキリを使っていたんですが、それが貝印のものだった。それからずっと卒業できなかったけど、ようやくAUGERで卒業できそう(笑)。
—「整える」ための日々のルーティーンがあれば教えてください。
HARUKA:毎日のルーティーンは……ないです。でも、作品を撮るときは決まっています。絶対にホコリを入れたくないので、掃除は入念にします。撮ったあとのレタッチを楽にするためにも(笑)。掃除のあとは、撮影をしているときに極力ストレスのない状態でいたいので、予め準備を整えます。撮影の小物をすべて用意して、動線もストレスがないようにしてから撮る。音楽もかけずに無音です。曲をかけるという行為に意識が持っていかれちゃうから。まわりの生活音だけで、ぎゅっと集中して撮っています。
—その準備の段階が、集中に向かっていく行為/時間になっている?
HARUKA:そうですね。それがスイッチというか。逆にレタッチは、音楽をかけながら楽しくやってるんですけど。
Aitone:撮影はやり直しがきかないもんね。
HARUKA:そう。だからこそ撮影にグッと入り込めるように。ブツの撮影って、水平や平行をとるために1ミリ以下のほんのちょっとしたズレを調整したり、指紋がつかないように気をつけたり。ホコリを取るのもひと苦労。あとはピントもシビアなので。
—Aitoneさんは日々のルーティーンはありますか?
Aitone:僕も普段はあまりないですけど、制作のときは、ちゃんと道具が使える状態にあるかどうかの準備は毎回します。今回のように紙に描くときは、指先のちょっとした油分や汚れが紙に影響するし、ツメが少しでも伸びていると紙を傷つけてしまう。だからまず手をきれいに整えるところからはじめます。あと、制作すると決めている日は、ご飯も食べないようにしています。
HARUKA:わかる、それは私もそう。絶対に食べない。集中しているとお腹減らない。
—「自分と向き合う」ことで生まれるものとは。
HARUKA:作品を作る上では、自分と向き合ってないかもしれない。撮影するもの自体に向き合うというか、「どう撮ればおもしろくなるんだろう?」「どう違和感あるものにしていこう?」という好奇心で動いている。だから今回も、自分と向き合うというよりは、AUGERと向き合っていたのかもしれないですね。
Aitone:僕の場合は、制作中は自分と向き合うことになる。今の自分がどう表現できるか。今の技術や感性がそのまま出るので、毎回、描くたびに自分と向き合うことになる。
—出来上がった作品を見返して、自分を知る?
Aitone:どちらかというと「ここまで来れたな」という感じですかね。
HARUKA:そんな感じです。自分を追いこんで、少しでもいいものができたかな、ちょっとは成長したかな、という。
Aitone:今回もね。それがないとつまんないから。
HARUKA:うん。新たな自分を見つけられる。
Aitone:かといって毎回、100点にはならない。
—これまでの自分より上回ったものではあるけれど、100点でもない、という?
Aitone:そうですね。100点になることは一生ないんだろうけれど。
HARUKA:すごく狭い自分の合格ラインにぎりぎり滑りこめるかという。
Aitone:こっちに合格ラインを作っていたけど、あっちに別の合格ラインもあったのか! というのもあるよね。
HARUKA:たしかに、そのパターンもあるね。
Aitone:どちらにしろ狭いから、見つけるのはたいへんだけどね。
HARUKA:常に実験ですね。
Aitone:自分と対峙するというのはね。
—では最後に。お二人にとっての「整える」とは?
HARUKA:プライベートでは苦手としていること。「整える」って現在進行形じゃないですか。ワクワクすることに向かっている準備段階というか。部屋の片付けをしている最中はイヤですけど、整ったあとは気持ちいい。遊びに行く準備をしているときも整えたりするけど、その先に楽しいことが待っているのを考えるとワクワクする。それが一番、気持ちとしては大きいかなと思います。
Aitone:僕にとっては……抜かず締めず、ですかね。力を抜きすぎても、気合いを入れて気張りすぎても良くない。ちょうどいいゆるさ。リラックスしている状態。
HARUKA:自分らしくいられる状態ってことね。
Aitone:………うまくまとめてくれたね(笑)。
HARUKA:まとめちゃったね(笑)。
Photography_Masashi Ura, Edit&Text_Takuya Nakatani(DEGICO)
今回のHARUKA OSHITA×Aitoneコラボレート作品を展示するエキシビジョンが、2023年5月10日(水)より6日3日(土)まで、東京・八丁堀CENTER/EDOにおいて開催。3連作が初披露されるほか、各作家の作品とAUGERの展示も合わせて行います。展示初日の5月10日(水)19:00 – 23:00には、オープニングレセプションを兼ねてスナックセンターが開店。両作家が在廊するほか、三軒茶屋〜下北沢を結ぶ茶沢通り沿いに位置する、クリエイターの集う名物スポット「幸福スタンド」によるケータリングもご用意します。
また会期中には、100円を入れて回せばAUGER商品がもれなく当たる自販機が登場。先着100名様限定でご体験いただけます。
『HARUKA OSHITA×Aitone EXHIBITION presented by AUGER』
[会期] 2023年5月10日(水) – 6月3日(土)13:00 – 18:00 ※日曜定休(5/14は営業)、入場無料
[会場] CENTER/EDO(東京都中央区八丁堀2-21-12)
[作家] HARUKA OSHITA / Aitone
*OPENING RECEPTION:5月10日(水)19:00 – 23:00
https://www.instagram.com/center_edo/
ABOUT AUGER®
忙しい朝も、穏やかな夜も、人間らしさを取り戻す。身だしなみを整える時間は、自分と向き合う時間でもあります。自分の心に触れて日常を整えると、普段の何気ない時間が愛おしくなる。AUGERが提供したいのは、暮らしを「整える」心地よい豊かな時間です。